庁中漫録

古文書「庁中漫録」は、江戸時代を中心とした大和の話題の宝庫です。
このコーナーでは、「庁中漫録」のくずし字を活字に直して掲載しています。
史料が語る生の声を聞いて、魅力あふれる大和の歴史に触れてみましょう。
また、古文書のくずし字に興味がある方のために原文も用意しました。ぜひ挑戦してみてください。

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「庁中漫録」の書誌学的特徴

「庁中漫録」の書誌学的特徴

 

「庁中漫録」はその装丁から史料作成に関する重要な情報が読み取れます。また、その中身は古典籍特有の決まりに従って書かれています。これらの特徴を読み解き、史料を正確に読み解くための知識を身につけましょう。

 

(1)装丁

「庁中漫録」は一部の巻を除いて同じ装丁が施されています。以下のような特徴があります。

図1 「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」表紙

図1は史料紹介にあげている「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」の表紙の写真です。他巻も概ねこのような装丁になっており、写真のような色をしています。この色は蘇芳色(すおういろ)と呼ばれています。蘇芳色とは、マメ科の染料植物である蘇芳を原料とした色のことで、黒みを帯びた赤色が特徴です。奈良県の県章にもこの色が用いられています。

大きさ

この巻の大きさは縦29.8センチメートル、横23.3センチメートルです。大きさは巻によってまちまちですが、この巻のように縦が28~29センチメートルで、横が22~23センチメートルのものが大多数を占めます。

袋綴じ(ふくろとじ)

「庁中漫録」は袋綴じで作られています。袋綴じとは、紙を1枚ずつ折り、折り目と反対の方を綴じて作る方法のことで、和本の代表的な作り方の一つです。

 

 

 図1 「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」表紙

例えば、第19巻「大和国著聞記」は85枚の紙を1枚ずつ折って綴じられています。この二つ折りにした1枚の紙を1丁(ちょう)と数えます。数える際には、折った紙の右半分(見開きの左側)を1丁表、左半分(見開きの右側)を1丁裏と数え、2丁目以降も同様に2丁表、2丁裏と数えます。煩を避けるため、1丁表を「1オ」、1丁裏を「1ウ」と書くことが一般的です。この巻は85丁あり、それぞれ表と裏があるので、頁換算すると170頁分ということになります。

料紙

本史料の多くの巻には鳥の子紙(とりのこがみ)という高級紙が使われています。鳥の子紙とは、雁皮(がんぴ)という木を原料として作られた和紙の中でも厚めのものを指し、独特の光沢と滑らかな質感が特徴です。

貼り紙

本巻の表紙には左下と右上に小さな紙が貼られています。左下の貼り紙には朱で「四十四」と書かれています。この貼り紙は全ての巻にあるものではなく、一部の巻にのみ存在します。なかには貼り紙が剝落してしまっている巻もあります。

右上の貼り紙には「玉井家什書 一九 昭和廿三年調」と書かれています。こちらの貼り紙は全ての巻に存在します。このことから、「大和国著聞記」は古くは44番目に位置しており、昭和23年に整理されたときに19番目に位置づけられたのではないかと考えられます。

 

(2)後補表紙と原表紙

「庁中漫録」の多くの巻には、表紙と1丁表の2ヵ所にそれぞれ題名が書かれています。このような方法は和本においては一般的で、表紙に書かれた題名を外題(げだい)、本のなかに書かれた題名を内題(ないだい)といいますが、本史料の場合は事情が異なります。

後補表紙

装丁の項目で図1は「大和国著聞記」の表紙であると説明しましたが、実はこの表紙は後からつけられたものであることが確認されています。このような表紙を後補表紙と呼びます。左上には「大和国著聞記」の文字が見え、この題名が第19巻のものとして定着していますが、「庁中漫録」の編者である玉井定時がつけた題名は別にあり、それは原表紙に記されています。

原表紙

表紙を開くと、1丁表には「和州志」という題名が書かれています。これが玉井定時がつけた題名であり、「大和国著聞記」は最初「和州志」と題して作成されたことが分かります。また、54巻の「地震安鎮記録」のように、後補表紙には題名がなく、原表紙にしか題名が書かれていないものもあります。

 

(3)本文の特徴

「庁中漫録」には、現在では用いられなくなった多種多様な工夫が施されています。これらを知ることによって、史料が正しく読めるだけでなく、この史料の作成過程を垣間見ることもできます。

図2 『大和国の合戦模様』(「庁中漫録」第19巻)

割り注

割り注とは、本文の間に小さめの文字で2行取りで書かれた文章のことを指し、主に直前の言葉の補足説明に用いられます。図2は史料紹介の『大和国の合戦模様』に現れる割り注です。「秀次の弟にて」から「沙汰あり」までが直前の「秀俊(羽柴秀保)」の補足説明となっています。次のように書かれています。

  秀次の弟にて秀長死法(「去」の誤)之後

  継子に被 仰付とも沙汰あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図2 『大和国の合戦模様』(「庁中漫録」第19巻)

 

頭注

頭注とは、本文の上欄外に書き入れられた文章のことを指します。これも割り注同様、補足説明のた図3 「庁中漫録」第3巻「大和名勝志」93丁裏めに用いられます。図3は「庁中漫録」第3巻「大和名勝志」93丁裏の写真で、興福寺の五重塔の記述の上部に小さめの文字が6行に渡って書かれているのが確認できます。これが頭注で、次のように書かれています。

  貞観十八年

  七月七日寅ノ

  時、此塔地震

  及翌十(「于」の誤)九日

  不止、見

  代実録

 

 

図3 「庁中漫録」第3巻「大和名勝志」93丁裏

内容は五重塔の補足で、貞観18年(874)7月7日に五重塔において震動があり、9日までやまなかったことが記されています。

見せ消ち(みせけち)

本史料では文字の訂正に見せ消ちという方法が使われています。見せ消ちとは、訂正すべき文字の近くに「◦」や点を2つ並べた「〻」のような符号を付け、その文字を抹消したことを示す方法です。

 

図4 『大和国の合戦模様』(「庁中漫録」第19巻例えば、図4の『大和国の合戦模様』にある「義」の左側には「〻」という符号があります。これによって「義」は抹消され、代わりに右側には「儀」が書き足されています。写真左側にも見せ消ちがあります。「を」を「〻」で消して「大和」と訂正しています。これらの場合、読み方はそれぞれ「順慶ハ」「御舎弟大和大納言」となります。

 

 

 

 

 

図4 『大和国の合戦模様』(「庁中漫録」第19巻)

 

図5 本史料には様々な見せ消ち符号が現れます(図5)。「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」3丁表に現れる「官」は点を三つ並べた「ミ」のような符号で消されています。また、同巻4丁裏の「業」は「◦」で消されています。他にも本史料には「ヽ」や「ヒ」のような符号もみられます。また、見せ消ち符号は文字の右側や中央に付けられることもあります。史料紹介の『大和国の合戦模様』の「丸」の見せ消ち符号は文字の中央に施されています。また、見せ消ちは訂正する文字がなく単に文字を消したいときにも使われます。『大和の国侍たち』の「内」がそれで、この場合は「内」をとばして「煙の紛に」と読みます。

 

図5 左より「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」3丁表
「庁中漫録」第19巻「大和国著聞記」4丁裏
『大和国の合戦模様』(「庁中漫録」第19巻)
『大和の国侍たち』(「庁中漫録」第19巻)

朱書き

朱色で書かれた文字や記号を朱書きといい、古典籍の世界では主に注釈や校訂のために用いられます。本史料では、前述の見せ消ちが朱書きされていますが、墨で書かれた見せ消ちも見られます。朱書きは、墨による本文の筆記が終了したのちに施されたことが確認されており、玉井定時の「庁中漫録」作成過程を知る手がかりとなっています。

朱引き

文字の左右中央に1本または2本の朱線を引き、その語を一般名詞と区別する方法を朱引きといいます。線の位置と本数により次の6種類の分類があります。

 ①文字の右側=地名、建築物名

 ②文字の中央=人名、仏像名 

 ③文字の左側=官名

 ④文字の右側に2本=国名

 ⑤文字の中央に2本=書名

 ⑥文字の左側に2本=年号

図6 「庁中漫録」第3巻 3丁表図6は、「庁中漫録」第3巻「大和名勝志」3丁表の写真です。この丁にはたくさんの朱引きが施されています。2行目冒頭の「本朝僧史」には中央に2本の朱線が引かれているので、これが書名であることが分かります。この行を順に見ていくと、「興福寺」に右1本(場所)、「和銅」に左2本(年号)、「藤」に中央1本(人名)「丞相(じょうしょう)」に左1本(官名)、となります。なお、「藤」は行末から次行にかけての「不比等」とあわせて「藤原不比等」を表しています。

このように、「庁中漫録」には書かれた情報を正しく伝えるための工夫が豊富に見られます。割り注は、行を2行にすることによってその部分が本文とは違う文章であることがすぐに分かるよう視覚的な配慮が施された結果ということができます。見せ消ちは、文字の塗りつぶしを避けることにより紙面を汚さずに文字が訂正でき、訂正される前の文字が何であったかを残しておくことができるという利点があります。

また、朱引きは、線が引かれた箇所が固有名詞であることを指し示すことによって誤読を避ける機能があります。「庁中漫録」は漢文で書かれている箇所も少なくなく、また当時は句読点を用いないことが普通でしたので、このような工夫が必要でした。

図6 「庁中漫録」第3巻 3丁表


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